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DVD BOX
KAI YOSHIHIRO Billboard LIVE COMPLETE BOX 2015-2019
2021.04.1 更新
DVD5枚組 BOX SET
KAI YOSHIHIRO
Billboard LIVE
COMPLETE BOX 2015-2019
2015年から始まった、甲斐よしひろのビルボードライブ公演。
5年間の音楽的冒険を完全映像化!!
2021年6月初旬 数量限定発売開始!
⭐️ただいま予約受付中⭐️
収録映像
「EAST & WEST」 (2015)
「EAST from WEST」 (2016)
「EAST to WEST」 (2017)
「EAST with WEST」 (2018)
「EAST in WEST」 (2019)
●DVD5枚組 税込30,000円(税抜価格 27,273円)
https://kaisurf.com/store/kaid38/
●DVD5枚組&CD5枚組 税込33,000円(税抜価格 30,000円)
https://kaisurf.com/store/kaic34/
※CD5枚組のみの販売はございません。
甲斐よしひろ語り下ろしライナーノーツ
<2015年>
最初の4曲を全て、鈴木健太が一人でやってるんですが、3曲目「噂」と4曲目「あの日からの便り」については、リハーサルの時に彼が何度も確認してきたんです。「これ、オリジナルは2人でやってますよね?」って。確かに、その2曲はオリジナルのレコーディングではギターのパートを2人で弾いていて、僕はもちろん知っていたんですが、「うーん…」と生返事するだけでやり過ごしてました。そしたら、その2人でやってる内容を、彼は工夫して一人でやってしまったんです。できるはずないんですけど(笑)。で、その年の公演が全部終わってから、「実はあれ、オリジナルは2人でやってるんだ」と伝えたっていう。だから、半ば騙すような形でやらせたところもあるんですが(笑)、見事なアプローチを最初の年にすでにやってくれています。
5曲目「マリーへの伝言」も、フィドルは加わりますが、ほぼ彼がベーシックを弾いてる。つまりアタマ5曲を彼がほぼ一人でやっているわけです。そこでもう明らかなんだけど、このシリーズは鈴木健太の生ギターが母体で、そこがしっかりしていないとできないということですよ。ある種の緊迫感も感じさせつつ、僕の歌と二人でこの世界に引きずり込む。そうじゃないと、このシリーズは完結しないよっていう。このシリーズの心臓の部分、その鼓動を聴かせているわけで、まさにここが始まりですね。
「500マイル」は、コーエン兄弟の映画「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」の「古くて新しけりゃフォーク・ソングだ」というセリフが僕のなかにずっと残っていて、映画は幾度となく見直したし、このスタイルの着想をサントラから得たということもあり、映画でもやってるこの曲をピックアップしました。続く「夏の日の想い出」と「10$の恋」は、『翼あるもの』のなかでも特にカントリー・フレイバーの強い曲なので、Wベースもフィドルも入る編成ならすごくナチュラルにやれるだろうということでの選曲です。ただ、この年はまだ手探りのところもあったので、終盤の「漂泊者(アウトロー)」から「安奈」という流れは、絶対みんなが盛り上がる曲を用意したという感じですね。
アンコールで「冷血(コールドブラッド)」を僕が一人でやり、さらに「円舞曲(ワルツ)」をやったのは、“このシリーズはこういうのもやるんだ!?”という、ただならぬ気配を感じさせる意図があったからなんですが、結果的にはそこも大いに盛り上がりました。
この年を終えた時点での僕の気持ちとしては、“全体的に少し長い。1日2回やることの体力やインパクトを考えると、もうちょっとスリムにして、スマートに起承転結を見せる必要があるな”と。だから、2016年からは健太と二人でやる序盤のパートの曲数を減らし、冒頭2曲を二人でやって3曲目から他のパートが加わっていくという形にしました。
<2016年>
一番のトピックは、Wベースもフィドルもメンバーが代わったことです。もっと自由自在にできる人材を探そうと思い、何度もオーディションをやりました。Wベースの木村(将之)くんは、強く太くインパクトのある、豊かな音色を出せるだけでなく、弓弾きもできる。しかも、クラシック出身であるけれども実は高校時代にバンドでエレキベースも弾いていました。そうしたユーティリティーなプレイヤーを見つけないとダメだと思ったわけです。フィドルの磯部(舞子)さんは、チャラン・ポ・ランタンと共演したりして、演劇的な要素を含んだ音楽もやってきているプレイヤーです。この二人を迎えたことがすごく大きかった。より自由に、開放的な形で音楽をやれるようになったし、それがこのシリーズのスタイルになっていくことにもなりました。
ステージはさっきも言った通り、冒頭2曲を僕と健太でやった後、木村くんが入ってきて弓弾きを聴かせオーディエンスの感嘆の声を誘うという(笑)、そういう流れです。そしてそこからの4曲は、2年目でありながら、完璧な出来栄えです。そもそも健太が、普通のフィンガリングも抜群に上手いうえに、ボトルネックもできる、バンジョーも弾けるという超ユーティリティー・プレイヤーであって、そうした特質がここでフルに発揮されていますね。3曲目「冬の理由」でまず完璧なフィンガリングを聴かせ、4曲目「ブラッディ・マリー」ではボトルネックを披露している。そこに僕の生ギターやハープも入ってくるから、とても4人でやっているとは思えない音です。
5曲目「500マイル」は前年もやりましたが、この年の演奏はもっと深みが出てますね。おまけに、歌ったことがない木村くんが「僕、歌えますよ」と自分からチャレンジングな発言をするくらいの空気に、もうなってたんですよ。つまり構成として「ここ足りない」となった時には献身的な犠牲も厭わないという人間が入ってきたということですよね。
7曲目の「夕なぎ」は、最初にこのメンバーでやった時、この曲は生ギターで作ったことを思い出しました(笑)。加えて、せっかく歌える女性フィドラーが入ったわけだから、女性コーラスをうまく使える曲も入れたいなとも思って。この曲は今まで何度かやったことがありますが、オリジナルも含めたなかで、これが一番良くできてますね。
終盤、前年一人でやった「冷血(コールド・ブラッド)」をバンドでやり、「円舞曲(ワルツ)」は前年からさらにブラッシュアップして、その2曲がすごくうまくやれたので、僕のなかではもう「風の中の火のように」か「破れたハートを売り物に」のどちらかはやらなくても良かったなという気持ちになっていたし、新たな意欲に火をつけるステップにもなってます。
この2年目で、僕が思っていたよりも早いペースでビルボードのスタイルは出来上がったと感じました。それに、メンバーのみんなも自信をつけたので、次の年にはもっと意欲的なセット・リストで臨める確信を得ていました。
<2017年>
実際、前年以上に意欲的なステージになりました。
健太のギターと僕のハープで最初の2曲をやり、3曲目「二色の灯」からWベースが入ってくるという、ここでもうスタイルが出来上がっている感じですが、この「二色の灯」と、7曲目「Fever」、8曲目「オクトーバームーン」は特に素晴らしい。何が素晴らしいかと言うと、オリジナルとは違う形でオリジナルを上回る力強いテイスト、力強いやり方を見つけているんです。もっと解体していっていいし、その上で再構築するということがこのメンバーだったらできるなって。この人数では普通できないようなアプローチを可能にする独創的な発想力を持っているし、それを実現できる技術があるから。しかも、「この年は相当攻めてますよね」と後に健太も木村くんも言ってましたが、この年は途中で“できるかな?”みたいな気持ちが入り込んできても「いやいや大丈夫。俺たち、もっとできるから」という感じでした。
アンコールの1曲目「フィンガー」は、鈴木健太のバンジョーをフィーチャーしたサウンドで、これも「二色の灯」「Fever」「オクトーバー・ムーン」と同様、オリジナルとは違うオリジナリティーに溢れた演奏です。ここまで来ると、メンバーはもう単純に楽しいんですよ。楽しみながら、新たなオリジナルを見せつけるという感じになってる。それに続く「吟遊詩人の唄(ONE MAN BAND)」は、映像を作りながら気づいたんですが、どこの会場も総立ちです。この年は1曲目の「クール・イブニング」の時点でもうワクワク感が客の中で十分に高まっている感じがあったな、ということも思い出しました。
最後の「ランナウェイ・ブルース」でこのシリーズのやり方、つまりトラッドでカントリー・フレイバー溢れるビルボード・ライブのスタイルがいよいよ結晶した感じになっています。
ところで、この年の実際のライブでは本編で「破れたハートを売り物に」の後に「裏切りの街角」をやっていて、演奏のクオリティーは悪くないんですが、ライブの流れとしてはちょっと違和感を感じるところもあったので、いったん「破れたハートを売り物に」で本編を終えてアンコール3曲の後に、ボーナス・トラック扱いで「裏切りの街角」を入れています。
<2018年>
1曲目「あいのもえさし」の鈴木健太は、もう自信に満ち溢れています。2016年1曲目の「街灯」も素晴らしかったけれど、ここでの彼のフィンガリングは完全に確信がある弾き方です。次の「涙の十番街」も、“これ、やるんだ!?”という驚きも含めた反応があったし。そういうふうに、驚きとともに味わい深いサウンドを楽しめるというのが一番いいと思うんです。こういうシリーズ・ライブの本領発揮という感じの演奏だと思います。
3曲目「昨日鳴る鐘の音」は、甲斐バンド最初期の曲ですが、その時期の甲斐バンドに踏み込んでもオリジナルに負けないやり方をすでに見つけていますね。2年目、3年目を経て、「解体して再構築」ということの手応えがここで完全に表れている。このシリーズにおける独自性が見事に発揮されている演奏です。
2016年の「卒業」、2017年の「サルビアの花」と、5、6曲目あたりでじっくり聴かせる流れがもう出来上がっていて、この年は「ユエの流れ」をたっぷり聴かせました。そして、それに続いて「ラン・フリー(スワン・ダンスを君と)」を聴かせたところに、曲数を13曲まで減らしたサイズでの起承転結をわかりやすい形で展開する、そのポイントが一番明解に出ていると思います。
そもそも、僕らのなかでは2年目を終えたあたりで13曲にしたかったんです。それは、「この曲とこの曲のために必要なつなぎの曲」みたいな、遊びの部分を入れ込みたくなかったから。「ここは、お客さんが乗りやすい流れにするために必要だね」というような意識もプロとしては大事だけれど、そういうものを削ぎ落とした形で起承転結を気持ちよく見せるということをやりたかったんです。その意味で「ユエの流れ」をたっぷり聴かせた後に「ラン・フリー(スワン・ダンスを君と)」へと展開できたことは、すごく大きな意味を持っています。
「ラン・フリー(スワン・ダンスを君と)」は、曲調はゴスペルチックなバラードだけれど描いている世界がものすごく大きいから、オーディエンスも一緒に盛り上がれるし、歌える曲。例えば甲斐バンドのコンサートにおける「嵐の季節」ように、こういうじっくり聴かせた上にみんなで歌える曲が出てくると、そのシリーズは絶対大丈夫。加えて、9曲目「汽笛の響き」が「冷血(コールドブラッド)」に続いて大ヒット曲になっていくわけですが、こういう躍動感をしっかり感じさせる曲があると、いよいよそのシリーズは大丈夫なんです。
8曲目「デッド・ライン」は、“My Name Is KAI”で弾き語りでやった曲をビルボード・シリーズのスタイルでできるようになったという意味で、これまた大きい1曲です。弾き語りでやっている曲は、僕一人のなかでは完全に出来上がっているんだけれど、「一人で出来上がってるから、そこにギター、ベースと足していけばいいだけだ」というのは全く素人的な考えです。そうやって足していったものがちゃんとアンサンブルとして出来上がるとは限らないんです。バンドというものは。でも、この「デッド・ライン」は、それができている。ということは、このバンドのスタイルが出来上がっていることの証なんですよね。そして、それは新たなスタイルを呼び起こすことにもなるわけです。
また、この年の「観覧車82」のように、本編最後は健太のウクレレをモチーフにしたアレンジで終わる形になってきていることにも、このバンドのスタイルの完成を見てとることができると思います。
<2019年>
KAI FIVEを好きな人たちの口からいつも出てくる曲の一つ「四月の雪」から始まって、やはり冒頭2曲は二人でやり、3曲目「薔薇色の人生」で木村くんの弓弾きのベースが入るわけですが、このバージョンもオリジナルを超えたオリジナリティーが出ています。このバージョンは、基本的にはオリジナルよりも『翼あるもの』のバージョンを踏襲していて、それはエレキギター2本にドラム、ベース、フィドルというすごく豪華なセッションでやっていますが、それとは違うやり方なのにこんなにすごい出来上がりになっている。それは、まず健太のフィンガリングが、そして木村くんの弓弾きのWベースがすごいからです。二人でやってるんだと思うと、恐ろしいくらいですよ(笑)。加えて、2016年の「二色の灯」で僕らは自信をつけたんです。いいアレンジさえできればこの二人でできるという感触をそこで持てたから、そのアプローチが違う形でここにまた新しい成果を生み出したということですね。
6曲目の「影」もKAI FIVEのナンバーで、ビルボード・ライブのメンバー構成では絶対無理だと思われる複雑なサウンドですが、ここでは言わば「ロッド・スチュアートとトレイシー・チャップマンの幸福な結婚」という感じに仕上がっている。ビルボード・ライブのメンバーで作る独特の世界観が息づいているから、この演奏はどこの会場でも拍手がものすごかったのを憶えています。
8曲目「呪縛の夜」は、前年の「デッド・ライン」と全く同じ考え方で、弾き語りで完成していたものをこのメンバーのアンサンブルにどう結びつけるかをポイントに取り組み、前年を上回る、理想的な融合を果たしています。特に鈴木健太のボトルネックは、ジョニー・ウィンターがライブ盤で聴かせているような、白熱の演奏です。そして、この年には「冷血(コールドブラッド)」のような曲をもう1曲作り上げる必要があると思って「非情のライセンス」を選びました。フィドルをフィーチャーしたこのスタイルでやると、例えばボブ・ディランのアルバム『欲望』の「ハリケーン」や「コーヒーもう一杯」のように、こういうマイナー調の曲がより際立つんですよ。
こうして見通してみると、2016年からのいい形での変化というか、クリエイティビティの度合いが加速度的に増してきているそのエネルギーを浴びている感覚をすごく感じますね。
最後に、ここで何故この5年間のコンプリート・ボックスを出すことにしたかというと、2020年と2021年の甲斐バンドのメンバーが入ったビルボード・ライブは別物ですよということです。
この5年間のシリーズがさらに続くのは、2022年からです。いったん甲斐バンドのメンバーが入ったステージを経験したことで、2022年からのステージでさらに意欲的に、野心的にやっていくことは間違いないです。だからこそ、ここまでの5年間をまとめたコンプリート・ボックスをまずは心ゆくまで、たっぷり楽しんでください。